第十八話 先立って行った釣友との思い出 (下)

降り始めた谷は落差もきつく 時折滝壷を走る 魚影を確認しては ”居る居る 居るよ!” はしゃぎ
ながら何時しか 水量豊かで押しの強い 亀尾島川本流の 圧倒的な渓相を 前にした。
この当時持ち歩いた三間の竿では とてもこの
流れ全てを 探る事は叶わず 次々と現れる
魅力的な大場所の連続に 対岸への徒渉点の
確保さえ 限定され難しい物となろう。

目前に広がる大淵では 腰まで流水に浸かり 
少しでも先へと 上半身を目一杯伸ばし 振り
込んだ! 0.4号ハリスの先には 鮎掛け鍼には
二匹のヒラタ 流れのヨレへと入り込み ゆっくり
川底へと導き 直ぐに見え無くなった
目印の矢羽は 少し遅れ気味に流れに付いて
行き ここぞと目当てをつけた場所で止まった
無意識のうちに返した手首で 軽く合せが入る
大場所の居付きらしく ずんずんと 底へ 々
引き込む・・・・・

水面を割り 懐へと飛び込んだ其の姿と言えば
荒々しい 古武士然とした風貌 控えめな朱点
が 美しいアマゴだ。

雨の渓にて<1978>

もう充分に堪能させて呉れた このダイナミックな渓相にも 巻き路や踏み後は 割にはっきり残り
ルートの選定に迷う事は無い 快適な遡行が続き この渓を訪れる釣り人の喜びと歴史をも 感じ
させて呉れる。
以前には対岸向け 吊り橋が掛かって居ただろう処で 一旦路へと這い上がった 其処で途切れる
道路上には乗用車が一台! 上会津向け釣り上がった 釣師の物と思われる 此処まで亀島川の
野姓との出会いに もう二人共充分に満たされていた。
”そろそろ ビール恋しくない!”
”そーら 来たな。”


S氏はこんな時 絶対に異を唱えない 一言で
言ってしまえば やんちゃ坊主を見守る 大人の
対応で 思い起こすとS氏の鷹揚さに 若かった
私は 随分わがまま放題 云った物だった。

何時訪れてみてもこの渓は 釣果の多少にも
関わらず 充実した気分と時間を与えて呉れる
廃屋内の板の間で休息を取り 横になり目を
閉じると その昔此処に住む人々の 営みや
話し声さえ 聞こえて来るような錯覚を覚えた!
年月の経過は 人も自然も 形あるもの全てに
例外なく 変化を及ぼし 時と共に消え去る。

スーパーカブに跨り 緩い降り坂を 再び土埃を
巻き上げ走る 車中で待つ 有り余るほどの
ビールを求めひた走る 後部座席で騒ぎ過ぎ
声もかすれて来たようだ。

ある日のS氏の釣果<1978>

数々の思い出と 感動を共有出来た釣友S氏も 若くして二輪車の事故により あっという間に
帰らぬ人と成り 今では私の思い出の中 残像として残るだけと成りました 其の頃より向かう
事を 無意識に避け出した 彼との思い出多い渓の数々 自身の渓師人生も もうそろそろ先の
見え出した昨今 一人訪れてみては 先に逝った釣友と 語り合って見たいなと思えるように
成ったのは・・・・・・。
             
                                                  OOZEKI